株式会社ウェルネスは、クライアント個々にパーソナライズされた検査や健康行動を促す「パーソナルドクター」のサービスを提供する会社です。いつでも使えるドクターチャットで専属の医師が日常的に健康をサポート。病気を未然に防ぐ予防医療を根付かせるための事業を推進しています。今回は、同社のMedical Careチームのマネージャーとして活躍する現役医師・佐藤邦智さんにインタビュー。臨床医から軸足を移し、パーソナルドクターのひとりとなってクライアントに向き合うやりがいなどをうかがいました。
病院の外来では一人ひとりの患者さんに
割ける時間に限界がある
▼医師になられた理由と、医師になって感じていたことについて教えてください。 父が内科の開業医をやっていたので、医師はもともと身近な存在だったことが理由のひとつです。世の中からなくなることのない仕事ですし、自分の努力次第で仕事の価値を上げていける点は魅力だと思いました。
専門は脳神経外科で、これまで数多くの脳卒中の治療に携わってきた中で、救える命とそうではない命がある現実を見てきました。それと同時に、こうした病気に見舞われるのを防ぎ得たはずの患者さんが多くいることを知った面もあります。
▼予防医療の必要性を感じたということですか?
もちろんすべての病気が防げるわけではありませんが、たとえば脳梗塞にしても、生活習慣の改善や日常の行動変容によって発症の時期を遅らせたり、健康寿命を延ばすことはできます。ただ、病院の外来では一人ひとりの患者さんに割ける時間に限界がありますから、情報を細かく集め、時間をかけて指導していくのは難しいわけです。
命に関わるような病気を発症する前に、医者として何かできないか。そこに興味を持つようになった一方で、予防の段階から患者さんに接点を持っていくのは難しい。そのようなジレンマを感じるようになっていました。
▼そしてウェルネス社のことを知ったのですね。どんなきっかけからですか?
代表の中田がやっていたYouTubeをたまたま見たのが最初です。彼が掲げていた理念に共感して、メールを送ったのが始まりでした。
医師になって10年、何を目指すのか。
新しいことに挑戦したいという想いが芽生えた
▼特にどのような点に共感したのでしょうか?
病気というのは病院に行く前から潜在的に進んでいる一方で、我々医師は病院に来た人しかタッチできない。確かに、症状が出て病院に来られる患者さんを治す、というのは医師の役割として大きなものですが、病気自体を防ぐために、より事前でアプローチする医師がいても良いのではないか? という点です。 日本は米国などとは違い、国民皆保険制度に支えられた医療大国ですから、いざ病気になればフリーアクセスで専門医にかかることができます。その半面、予防に対する積極的な思考が生まれにくい面があるわけです。だからこそ、予防医療の考え方を広めていくにはビジネスとして落とし込んでいくことが必要で、そこに果敢に挑戦しているウェルネス社は、非常に意義のある面白い取り組みをしていると思いました。
▼そして実際に転職、つまりウェルネス社への参画を考えたわけですね。
はい。加えて、私が予防医療に興味を持ち始めたとき、ちょうど医師として10年目を迎えた時期でもありました。脳外科医としての基礎が固まって、基本的な手術もできるようになり、さあ次の10年で何を目指すのか。さらに臨床を突き詰めるのか、留学して研究に従事するのか、それとも大学に戻って教育に携わるのか。次のキャリア選択を考えるタイミングでもありました。
そして最終的に、従来の医療の枠組みから飛び出して、培った知識や知見を予防医療という違ったサービスの形で提供していくことを選びました。これからの世の中を考えても意味のあることだと考え、ウェルネス社に参画することにしたのです。
▼脳外科医として臨床の第一線に立たれていた中で、勇気はいりませんでしたか?
確かに、かなり悩んだのは事実です。確実に人の役に立てるという圧倒的な価値や、臨床医の立場を捨てる決断は軽いものではありませんでしたから。ただ一方で、医師として新しいことに挑戦したいという想いや、これまで病院での医療だけを見てきた中で、ほかの世界も見てみたいという興味も強くなっていたんです。
そして付け加えれば、医師としての生活について将来を考えた点もありました。ちょうど子どもが生まれて1歳になりますが、日々の激務から、育児は妻にほとんど任せきりになってしまい、まったく参加できない状態でした。妻は自分のキャリアをいったん捨てて子育てに入ってくれたのですが、これからふたりめも欲しいという中で、自分がこのままできちんとした家族の形が作れるのか? という気持ちが湧いていたんです。もっとプライベートの時間を確保できるよう、この先の生活を考えた中での選択でもありました。 また、少子高齢化が進む今後の医療状況を考えても、将来的に医師の給与面や待遇面がプラスに向いていくのは難しい面があるかもしれないとも感じていました。医療費が国の財政を圧迫していく中で、医師という職業も厳しい環境に置かれていくのでは? という懸念も少なからずありました。
病気でない不調までアプローチできるのが
パーソナルドクターならではの強み
▼現在のウェルネス社での働き方や仕事内容を教えてください。
まだ業務をスタートして約2ヶ月ですが、週に3日間ウェルネス社の業務を行うほか、2日間は内科のクリニックに非常勤医として勤務しています。ウェルネスでの主な業務内容としては、「パーソナルドクター」としてクライアントの健康管理を行うほか、顧客の開拓や提供するサービスの向上などにも携わっています。 パーソナルドクターとしての役割は、クライアントに対する日常的な医療サポートをオンラインやリアルでの面談、チャット相談によって行うこと。顧客開拓は、経営者が集まる交流会などに出席して予防医療の必要性を啓蒙していく活動です。そしてクライアントの満足度を高める仕組みづくりや予防や健康に関する記事作成など、サービスの向上につながる取り組みを行っています。
▼より質の高いサービスにしていくために、医師であるからこそできることは何がありますか?
たとえば人間ドックのデータの解説やティーチングは誰でも勉強すればできますが、実際に健康状態の改善につなげるには、その人の生活スタイルのどこに介入して継続行動として習慣化してもらうかを判断し、コーチングしなくてはいけません。何を大事にして、データをどう活かすか。健康のために行動の優先順位をつけていくコーチングは医師にしかできないものです。
また一般の方にとって、人間ドックや健康診断の結果では表れないような病気ではない不調、たとえば睡眠の質が悪いといった悩みなどを訴えて病院に行くのは敷居が高いと思います。そこに日常的にアプローチできるのがわれわれパーソナルドクターの強みであり、医師の視点で提供するサービスとしていっそう拡充していきたい部分ですね。
▼その中で今、医師としてのやりがいをどう感じていますか?
現在、約30人のクライアントを担当していますが、食習慣などのコーチングで健診データが改善するのはもちろん、細かなヒアリングによって受け漏れの検査があることがわかり、病気が見つかることもあります。病院とは違った細やかなアプローチによって、病気を未然に防げるのを実感できることはやりがいにつながりますね。
▼あらためて医師として御社の強みはどこにあるとお考えですか?
個人にとっての本質的な予防や健康を届けられる環境にあるのは、とても貴重だと思います。クライアント一人ひとりに伴走して、医学的な面を切り口にその人の健康面をトータルでサポートすることは意義がありますし、医師の仕事の定義としてもこれから重要になってくる領域だと思います。病を治すだけでなく、心身の健康の維持と予防医療まで携わり、クライアント一人ひとりの生活をトータルでプラスにできる仕事はほかにありませんから、医師としてもやりがいを感じる毎日です。
そして当社には、新しいことにチャレンジするマインドがすごくあって、世の中を良くしようという想いをもつスタッフが多くいます。事あるごとに「防ぎ得た後悔をなくす」という理念に立ち戻り、そのために何をするかということを考えていますから、新鮮な刺激を多く受けながら医師として新たな価値を世の中に提供していけると思いますね。